アート系トーク番組 art air の日記

アート・美術・幼児造形などについて

【緊急告知】『美術教育の充実に向けての要望書・美術教育連絡協議会(8団体)による提言』

【緊急告知】『美術教育の充実に向けての要望書・美術教育連絡協議会(8団体)による提言』

以下に要約と全文を転載致します。

ぜひ一読ください。

http://www.edu.gunma-u.ac.jp/bijutu/8.html

PDFはこちら 

http://www.edu.gunma-u.ac.jp/bijutu/8/yobosyo2015.pdf


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1)美術教育は実践的なかたちで「認知スキル」の獲得を促進する。

◯イメージと想像力

◯批判的思考と創造性

◯表現と鑑賞の活動を通したメタ認知能力の獲得

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2)美術教育は感性を通して「社会的スキル」を獲得することに寄与する。

◯コミュニケーション

◯ICTとコラボレーション

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3)美術教育は「アクティブ・ラーニング」のモデルを提供し推進する。

◯美術の学習活動の本質は主体的で協働的な問題解決学習

◯アクティブ・ラーニングとしての図画工作科、美術科等の学習

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【全文転載】

1)美術教育は実践的なかたちで「認知スキル」の獲得を促進する。 

◯イメージと想像力

 ・「美術」は教育制度上、幼児は表現(造形)、小学校は図画工作、中学校は美術、高等学校は芸術(美術、工芸)及び専門教科の美術として示されていますが、ここではそれらを含めて美術教育とします。その中で、美術の創作活動において、身体感覚を伴ったイメージの働きや実際に経験したことで身に付く能動的知識(active knowledge )の習得は、形式知だけでなく、科学的な発明や発見に寄与する「暗黙知[1]」の獲得にもつながり、21世紀型スキルでの「持続する理解」の基礎となります。

 ・手はとびだした脳ともいわれますが、美術活動における材料や用具の扱いは、目と手と頭、つまり、視覚と身体、そして脳の働きを連携させて、身体知など含む認知活動を拡充していきます。

 ・幼児教育での造形活動での「遊び」や小学校図画工作科の「造形遊び」における自然や実材との触れ合い、物や用具を具体的に操作する経験は、ICTの時代にあって、「生きる力」の基盤となる感覚や感性を育む場となります。遊びにおける共感性にもとづく想像力を伴う他者との交流は、人工知能(AI)では代替できない人間らしさや感性をより豊かにします。

◯批判的思考と創造性

 ・美術作品の鑑賞における「批評」は、作品を記述し、構図などを分析し、作品をめぐる情報を活用して解釈し、主体的な判断にもとづき、作品のあらたな価値を発見し創造していく活動です。美術批評(アート・クリティシズム)は、批判的に思考し(クリティカル・シンキング)、判断し、

言語でもって表現することで批判的な思考能力を高める活動です。

 ・鑑賞活動では、多様な様式・時代・ジャンル・主題等の作品図版を比較したり組み合わせたりして、作品の印象を語り合ったり、物語を創ったりするなどの学習が行われています。形や色を感じ取る活動と言語活動とを実践的に結びつける力が育まれます。他者と対話しながら、異なる対象を分析し、比較し、違いや共通点を判断し、それを言語で説明するというプロセスは、批判的思考力を促します。

 ・美術の創作活動は、伝統や従来の様式を踏まえながら、それらのよさを継承することで、あらたな価値を創造し作品を生みだす「イノベーション」です。既知のものを批判的に継承・吟味し、思考、判断、表現を通して、未知の価値を発見・創造することです。

 ・美術では、与えられた既成の正解は無く、自分で正解を見つけながら、創る活動が重視されます。未知の世界にチャレンジしていく活動は、子どもたちが、新しい社会や未来を創ろうとする意欲と実践的な能力の育成につながっていきます。

◯表現と鑑賞の活動を通したメタ認知能力の獲得

 ・美術での創作のプロセスは、頭の中のイメージを単に形や色に置き換える作業ではありません。絵の具などの材料を使って手を動かしながらできた形や色(出力)を知覚しながら次にどうするかを考え(入力)、筆を進めていくフィードバックに似たメタ認知の行為です。創作活動を通して子どもはメタ認知の能力を働かせ、より汎用性の高い認知能力へと高めていきます。

 ・グループでの美術鑑賞では、話し合いを通して、同じ作品をめぐって他者の多様な見方や捉え方を知り、自分が知らなかったこと、見えなかったことに気づき、自分を反省(リフレクション)する機会になります。つまり、自身の見方や感じ方をメタ認知し、他者の意見や異なる考え方を、より柔軟に受け入れていく汎用的な能力(キャパシティー)を獲得していくことができます。




2)美術教育は感性を通して「社会的スキル」を獲得することに寄与する。

◯コミュニケーション

 ・美術を通したコミュニケーションは、作家のアイデア、作品のテーマ等をただ伝えるだけでなく、感動や感情(喜びや悲しみ、緊張や安堵等)を参加した人々に喚起する効果をもち[2]、実感を伴ったコミュニケーションを可能にします。それは人と人が交流するというコミュニケーションの原点といえます。

 ・異文化理解に必要なスキルは、美術を媒介にした美しさや人間らしさなどを感じる共通感覚(コモン・センス)にもとづく社会的に共感する感性が働くコミュニケーションによって培われます。

 ・美術による表現は、言語表現が苦手な幼児や特別な支援を必要とする子どもにとっても非常に有益なコミュニケーション・ツールとなり、多様な子どもたちが共に学ぶインクルージョン教育の促進に寄与します。

 ・言語表現が苦手なため、コミュニケーションができなくて、ストレスをためた子どもが暴力行為にいたる前に、周囲の人たちと美術の表現活動を通してコミュニケーションをもつことで「ストレス・コントロール」ができたのは[3]、美術を通して汎用的な社会的スキルを獲得した事例です。

◯ICTとコラボレーション

 ・美術教育におけるICTの活用は、現行の中学校や高等学校の学習指導要領においても「映像メディア」の学習が明確に位置づけられ、ネットを活用した多様な実践が行われています。美術では情報機器の操作方法の学習ではなく、表現や鑑賞の目的を実現するためのツールとして機器を活用しています。小学校でもアニメーション製作やデジタル・カメラを使った活動が実践されています。美術では、各種の情報機器を自分で定めた目標実現のためのツールとして活用する活動を通して、汎用的な表現力が育ちます。

 ・感覚的に確認できる材料や形や色を媒介にした美術での共同制作は、言語だけのグループ活動よりも、より一体感を味わえる協働活動です。最近ではグループ内、学級内にとどまらず、異なる国の子ども同士がインターネットを通して大きな作品を共同制作する国際的協働プロジェクトもみられ[4]、「異なる人々の間で協働していく能力(Interacting in heterogeneous groups)」[5]を形成することにも寄与しています。




3)美術教育は「アクティブ・ラーニング」のモデルを提供し推進する。

◯美術の学習活動の本質は主体的で協働的な問題解決学習

 ・アクティブ・ラーニングは「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学習者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」(文科省用語集)とされます。美術教育の理念として国際的に共有されている「芸術(美術)による教育」(H. Read)では、教師主導ではなく、子どもに内在する素質や創造力を引き出すことを基本的な考え方としています。その点からみれば、美術教育の実践では、「学習者の能動的な学修への参加」を重視してきました。

 ・アクティブ・ラーニングという観点からあらためて、美術教育の理念、内容、方法等を検証しますと、子どもが自分で表したいことをみつけ、創意工夫を楽しみながら主体的に表現する活動や、クラスやグループで作品を鑑賞し、お互いの意見を述べ合う中で、発見したり考えを深めたりする活動等に典型的にみられるように、子どもの主体性を基盤とし、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、協働的学習等の多様な形態を含んでいることがわかります。その意味で、美術を通した学習は、アクティブ・ラーニングの先導的なモデルとなります。

◯アクティブ・ラーニングとしての図画工作科、美術科等の学習

 ・図画工作科、美術科等の学習活動における子どもの主体的な学びは、小学校での自らの感覚やイメージをもとに発想・構想していく「造形遊び」や、中学校での主体的に表現する「主題を生みだす」活動などの事例にその特質が示されています。

 ・ゲーム活動やロール・プレイングを取り入れた鑑賞活動、作品を媒介にした子どもの話し合いによる気づきや反省をもとにした作品理解と他者理解を深めていく鑑賞活動も、アクティブ・ラーニングの好例といえます。




 以上、「美術による教育」が、「思考力・判断力・表現力」の育成と「21世紀型スキル」や「キー・コンピテンシー」で主張される理念や考え方を既に実践してきたこと、これからの知識基盤社会において求められるイノベーションや予測を超えた問題の解決に柔軟に対応できる人間に求められる資質・能力の育成に不可欠な教科であることを、あらためて確認いただければと思います。 

 また、「文化芸術振興基本法、第二十四条(学校教育における文化芸術活動の充実)」が求める「文化芸術に関する教育の充実」を実現できる教育課程についてもご勘考いただけますよう、重ねて要望いたします。

 最後に、「生きる力」は英訳(文科省ウェッブ・サイト)では、「生きる喜び Zest for living (zest: enjoyment and enthusiasm)」となっています。「生きる喜び」は、美術、そして多くの芸術とともに、豊かに生きる生活においてこそ味わうことができるものだと思います。