アート系トーク番組 art air の日記

アート・美術・幼児造形などについて

幼児の造形活動に関する研究論文を、研究の型式ごとに大別してみました。

 これまでの幼児の造形活動における研究方法を整理して概観するために、近年の幼児の造形活動に関する査読付きの研究論文の参考例を、研究の型式ごとに分類してみました。
 研究論文の内容によっては明確に分けづらいものもありますので、ひとつの目安として考えていただければ幸いです。


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◆理論研究(理論構築やモデル化をめざす)

【仮説構築型】
 
 先行研究や他の学問の成果などから、または授業実践、保育実践による考察から、ある仮説を構築したもの。
 現在の幼児の造形活動における、仮説の構築においては、研究者の参与観察などによる主観的な点から仮説が生成されたものが多く、いかに仮説の生成を検証して、普遍化した理論として立証していくか、その方法に今後の課題がある。
 現状の幼児の造形活動に関する仮説構築型の理論研究は、少ない印象がある。

○幼児の粘土造形 : 基礎的な技能の習得及び題材(テーマ)についての実践と検証

神谷 睦代 美術教育学:美術科教育学会誌 30(0), 175-189, 2009

→幼児の粘土活動の題材設定について、実践をおこない考察しながら、第一期の内容と第二期の内容を設定した方が、活動が生き生きすることを理論構築した。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/aaej/30/0/30_KJ00006203416/_pdf/-char/ja



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◆理論研究(理論構築やモデル化をめざす)

【仮説検証型】  

 現状では、幼児の造形活動について、仮説検証型で書かれた論文は、とくに少ない印象がある。
心理学などでは多い研究方法だが、できるだけ因子を絞り込んだ実験室や、条件を同じ状態で行うなど、普遍化においては状況の固定化が必要である。

 しかし保育や授業における造形活動などでは、不特定多数の因子が複雑に絡み、状況変化が常に起こるため、保育学や教育学における理論研究とは、どのような方法と結果が妥当なのかは、これから確立していくことが課題である。



○幼児の描画における描画順序と知的リアリズムとの関連性

岩木 信喜, 吉田 朋子, 中村 英子 教育心理学研究 2003 年 51 巻 2 号 p. 154-164

→幼児の描画における見え方について、またその知的リアリズムについての理論を検証した研究。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/51/2/51_154/_pdf/-char/ja






幼児の「表現スタイル」に配慮した保育実践

槇 英子、日本保育学会誌『保育学研究』2004 年 42 巻 2 号 p. 139-148

https://www.jstage.jst.go.jp/article/reccej/42/2/42_KJ00004364505/_pdf/-char/ja



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◆実証研究(ある事柄から知識の獲得をめざす)

【実態解明型】


 幼児の造形活動において、どのような出来事が起こっているのかを明らかにする研究であるが、幼児の造形活動に関する研究では、方法として確実に行えるため、査読付きの研究論文としては最も多い内容であるように思う。

 たとえば参与観察して、時系列に沿って幼児のエピソード、出来事や、発言などを記録して記述する方法がある。


○図式期における子どもの描画過程にみられる「動きのイメージ」 : 視覚的文脈と物語的文脈に注目して

栗山 誠 美術教育学 : 美術科教育学会誌 2013 年 34 巻 p. 177-189

→描画プロセスシートを作成して、幼児の描画活動の過程の実態を明らかにした研究。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/aaej/34/0/34_KJ00009379860/_pdf/-char/ja


○幼児の描画活動におけるキャラクター表現の受容と指導

青陽 結, 高橋 敏之 美術教育学:美術科教育学会誌 2014 年 35 巻 p. 315-326

→保育施設におけるキャラクター表現に対するに保育者の指導の実態について明らかにし、その結果について考察したもの。この考察から仮説を構築できると考えられるが、ここでは理論構築までは行っていない。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/aaej/35/0/35_KJ00009814784/_pdf/-char/ja



○幼児期の子どもの造形表現行為と保育の場に関する研究

―4,5歳児を対象としたパイプを使用した題材から―

村田 透 美術教育学研究 2016 年 48 巻 1 号 p. 385-392

→活動を時系列でエピソードに沿って記録して、幼児の造形遊びにおいて、実態を明らかにしたもの。先行研究では造形遊びの理論的な解釈が整理されており、実態の解明による結果と考察から、造形遊びの題材設定についての理論構築ができるよう思う。
しかし、ここでは行われていない。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/uaesj/48/1/48_385/_pdf/-char/ja



○幼児の生活画の活動における保育者の援助に関する研究 : 導入時の援助の方略とその意図の分析を通して

大橋 麻里子 美術教育学 : 美術科教育学会誌 (37), 161-177, 2016-03
 

→園の設定保育における保育者の援助を、エピソード記述と、MーGTA グラウンデット・セオリー改の手法によって分類して、保育者の援助方法の実態を明らかにして、整理したもの。
 現在はまだPDFファイルで読めないが、M-GTAを使って、複雑な保育の造形活動を手際よく分類、分析している方法は参考になると思われる。 

https://ci.nii.ac.jp/naid/40020847970



○幼児同士の仲間関係形成に伴う造形表現過程の変化

―4歳児の製作場面におけるモノを「見せる」行為と製作過程に着目して―

佐川 早季子 保育学研究 2017 年 55 巻 1 号 p. 31-42

→1年間の参与観察、フィールドノーツ作成、ビデオ録画。
分析の方法は、カテゴリー抽出によるカテゴリー分類。結果の書き方は、カテゴリー分類と、代表的な事例をエピソード記述で明記。
幼児の造形活動の実態解明の方法として、参考になる方法が複数みられる研究。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/reccej/55/1/55_31/_pdf/-char/ja



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◆実証研究(ある事柄から知識の獲得をめざす)

【実態検証型】

 おもに質的研究などの実態解明型研究で分かったことを、さらに検証するために量的研究や、またはアプローチを変えて、実態の検証をおこなう研究。


○小学校における鑑賞学習指導 の現状と課題

松岡宏明 美術教育 No.300 2016年


→幼児の造形活動ではないが、図画工作科を担当している教員約3700人にアンケート調査をおこない分析したもの。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/arted/2016/300/2016_34/_pdf

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【その他、研究内容でなく、研究方法の一例】



◆質的研究

文章や文字などの質的データの分析から、ある出来事を解明しようとするもの。



◆量的研究

数値や数式を用いて計量的に現象をとらえ、説明しようとするもの。



◆歴史研究(文献研究)

過去の出来事に対し、時期で区分しながら歴史的事実に迫ろうとするもの。