ARTと表現の違い 副題 日本の美術教育の弱点について
アートについて話すとき、「アートは自由だ」とか「好きなことをすればいい」と言う人がいます。
一方で「アートは高尚で難しいものだ」とか「アートは美術史の文脈を理解してないとダメだ」と言う人も言います。
いったい、どっちなんでしょうか?
そこで、子供の表現の発達段階を通して、この矛盾について話してみたいと思います。
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人は1才半ごろから5才頃(保育園・幼稚園時代)まで、絵を描いたり、ものを作る「表現活動」を通して様々なことを学んでいきます。
幼稚園の主要5領域にも「表現」「ことば」「人間関係」「健康」「環境」とあり、表現活動が人の成長にとって大事な本能的な活動であることが分かります。
この時期の表現活動は、表現したものを親や先生に受け入れてもらい承認欲求を満たしながら成長していきます。またグループで表現活動をすることで他者への共感や思いやりを育んでいきます。
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つぎに6才〜10才頃(小学校低学年)は、親や先生よりも友だちとの関係が深くなり、友だちと協力して秘密基地を作ったり、ごっこ遊び、「造形遊び」をしたりと活動がより活発になっていきます。
いわゆるギャング・エイジと言われるヤンチャな年頃ですが、横の関係を広げながら活動することで、集団の中での立ち位置や役割を身につけていきます。
絵のほうも神話やファンタジーを感じさせるような集団の物語を描き込んでいくような描写が展開されます。
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さて1才半〜10才頃までつづいた絵をかいたり物を作る表現活動は、10才頃(小学校高学年〜)をすぎたあたりから少しずつ終息していきます。
ちょうど大人と同じ数の脳細胞ができるこの時期から、関心が「表現」から「文脈的なこと、理論的なこと、技術的なこと」に移行します。これは「表現」から「文化制度としての美術」への関心の移行を示しています。
10才〜15才の時期に「表現」に加えて「文化としての美術」「制度としての美術」を学んでいくことが、成熟した大人の美の知性を養っていく上で大事になります。また世界の美術の文化的、歴史的な理解は、国際社会で活動していく上で必要不可欠な教養です。
しかし残念ながら現在の日本の小学校の図画工作では、このような所まで手がまわっておりません。ここが日本の美術教育の弱点だと思います。
勉強が忙しくなってくる10才からの美術教育は、教科書が以上に薄く(アメリカの教科書の1/10ほどです)、勉強で疲れた頭を癒してくれる手技を活かした自己ケアとしての表現行為になっている場合が多いようです。
このような美術教育の結果、日本人の多くが「表現する楽しさ」や「他者と共感する」ことを大事にしている一方で、「文化」や「制度」としての美術への理解が乏しく、最初にお話したような「アートの理解の矛盾」が生まれてくるのだと思います。
アートについて話すとき、それが
表現としてのアートなのか
文化制度としてのアートなのか(欧米から輸入されたART)
お互いが理解したうえで話しあうことが、生産的な話をする上で、とても大事だと思います。