アート系トーク番組 art air の日記

アート・美術・幼児造形などについて

京都アートダイブの作品を「美術の物語」の視点で捉えるトークショーをしました。

5月14日、15日に京都市勧業館みやこめっせ』で開催された

「京都アートダイブ」http://www.artdive.net/

で”アートよろず相談所”のゲスト相談員として

トークショーをしました。


<京都アートダイブ2011会場風景>

受付付近



今までで最大の来場者数だったらしい。

二日間で4000名の方がご来場。




ライブペイントも盛り上がっていました。




<アートよろず相談所ブースコーナー>

さてこちらは、アートよろず相談所のブース

若手表現者を応援するため

弁護士の益山さん、試行する銀行員の田中さん、そしてアーティスト辻(私)の3人でブースにくる方々の相談を受けました。


右の方は京都で弁護士をされている益山さん

終日、相談に来られる方は途絶えることなく

1日中しゃべりっぱなしでした(^^)


さて、13時〜行われたトークショでは

このようにアートダイブ出展者の作品の中から

気になる作品をピックアップしてきて

作品写真を壁に貼り

日本文化と欧米の「美術の物語」を絡めつつ

作品についての分析と分類をさせて頂きました。




最初は2人の聴衆から始まったトークショーですが、

次第に、立ち止まる人が増えていきました。

写真は中間ぐらいの時間帯の写真ですが

この後、最終的にはブースの周りに人だかりができて

話題になっていました(^^)




アートダイブ事務局の方もインタビューに来られ

ビデオカメラをまわしながらのトークになりました。

盛り上がって内心ホッです。


作品をご紹介させていただいたアーティストの

皆様、本当にありがとうございました。




<出品者の作品紹介>


さて、それでは当日トークショーで話した

作品の特性の分類と、ステキな作品を

僭越ながら紹介させて頂きます。




1、鏡、肖像画、自画像、アバター

紗英 sae さん デジタルペイント フォトショップ


紗英 sae さん デジタルペイント フォトショップ


紗英 sae さん ブースの様子


http://www.chirorian.com/


今回アートダイブ会場の絵画作品の中で、

もっとも多かった主題のように思う人物画、

キャラクター画の作品から1点紹介します。

紗英 sae さん の作品。

彼女の作品は正面性のあるかわいいキャラの

肖像画なのですが、数枚のキャラが同じような

表現形式で描かれているため、WEB上の化身(アバターのようであり、またその化身が少しずつ変化していく

N次創作的、類推的な主体が表現されていてステキでした。






また人物画の周りには、人物画の次に多かった

主題、かわいいペット、動物たち、ぬいぐるみなどが

描かれており、アニミズム(すべても物に魂が宿るという感性)や

弱いもの、かわいいものを愛でる文化、

または自身の主体の受け皿として働く、移行対象の表象を感じました。

作品の仕上がりや構成も美しく、現在若者の表現のある部分を

かなり1枚の作品に圧縮できているのではないかと感じました。







2、窓・個人の小さな物語、ユートピア桃源郷、想像画
やまぐち ゆかり アクリル絵の具、
部分的に、日本画の画材である岩絵の具や泥絵の具


やまぐち ゆかり ブース風景

やまぐち ゆかり ブース風景


http://www.geocities.jp/gamueru/


次の紹介は、やまぐちゆかりさんの作品です。

ブースに設置された扉が示すとおり

向こう側の物語を描いた表現

「窓」として絵画を感じさせる作品です。



これは1、の鏡の絵画、人物画の次に多かったように

思う表現主題、個人の小さな物語、ユートピア

桃源郷、想像画、彼岸、などを「窓(絵画)」を

通して思い描くことで、個々人の主体を安定させる

効果があるように思います。








3、印象、感性、音、リズム

Nozomi 水彩 ペン





Nozomi ブース風景


http://www.eonet.ne.jp/~nozomi-color/


こちらも作品はNozomiさんの作品は

もともとは植物をモチーフに描かれたそうなのですが

音やリズム、または空気の印象や感性を感じる表現でした。

聞けばピアノで作曲もされているそうなので、なるほどです。

このような印象やセンスを表現する作品は女性の方に

多かったように思うのですが、水墨画の気韻生動の感性に

つながり、筆跡や色に読み取れる作家の精神の高揚を

表象するような系譜の作品に感じました。







4、エロス、グロテクス、欲望、生命力、増殖
フクモト ユカ アクリル


フクモト ユカ ブース風景


http://gutyagutyu.nigamushi.net/index.html


次の作品はフクモト ユカさんの作品。

ART作品として自身の主体を掘り下げていった時

かなりの確立で遭遇する主題「エロスとグロテクス」

扱った作品。

彼女の良いところはこれらの主題を自覚的に

取り扱っており主題を対象化できていることで

作品の強度が上がってきていることだと思います。

エロスは欲望や生命力を表現し、増殖の感性にも

つながっていきます。



また一方で血や穢れなどを伴い、グロテクスとして

表象されることもありますが、

彼女の作品には常にこの2つの要素が表現されていました。








5、飾り、結界、装飾、デコラティブ、豊穣、

miki yamashiro



miki yamashiro ブース風景


http://enna0111.blog111.fc2.com/


miki yamashiro、さんの作品。モノクロを基調として

シックなたたずまいですが、その本質は

「飾りに対する関心」ではないでしょうか?

必要以上に装飾することで、豊穣のイメージや

結界を張っていく行為に感じました。

色彩を犠牲にして形や飾ることに集中していく姿勢は

かざり表現者としての率直さを感じます。







6、男の手業、造形、傾く、タナトス(死への憧憬)、グロテクス

松岡平四郎 アクリル絵具



松岡平四郎 ブース風景


http://444.digi2.jp/


松岡平四郎さんの作品はエロスとちょうど対をなす

タナトス、死への憧憬とグロテクスを感じます。

こちらも内面を深めていったときに表れやすい表現ですが

エロスと同じようにグロテクスが並列されるときが多いです。



特筆すべきは、今回の会場で男性人に多かった

男の手業へのこだわりを表象していたことでしょうか?

松岡さんは絵を描かれる時、あまり下書きをされずに

光の光源を決めて順に広がりながら描いていくそうです。

そして描きながらトゲや質感などの造形的なこだわりを

思う存分絵画に表わしていくそうです。

その過程で表現が過剰になり戦国時代の武将の衣装

などで表現された「傾く(かぶく)」精神にも

つなっがていきそうに感じました。



このような手業に裏付けられた根気いる作業を

モクモクとこなしていくスタイルは男性の表現者

多数見られた現象でした。







7、遊戯、コラージュ、イメージ、連想
Rumpee デジタルフォトショップ またはコラージュ


Rumpee ブース風景


http://rumpeenosuke.tumblr.com


こちらのRumpeeさんの作品は、デジタルコラージュ

フォトショップで作成されているのですが、

お話したとき創作の過程で誤った操作をしたときに偶然あらわれる

バグのような表現がでてきて、そのイメージの連想をつなげるのが楽しいとおっしゃっていました。

この作品は日本の文化の特徴を「奇想の系譜」で有名な

日本美術史家、辻惟雄氏が述べていた「遊戯」する精神

つながっておると思います。辻氏はその他アニミズム」「飾り」

その特徴としてあげておられるのですが

間違いや偶然性を、たのしみや遊びに変えてしまう

日本人の感性を現代的に表しているなと感じました。






8、男の手業+かわいい表象、ポケット的な感性、根付、男性的移行対象

竹村 健一 一木彫り



竹村 健一 ブース風景


http://uapoom.blogspot.com/



竹村健一さんの作品は一塊の木の丸太を

彫り出して、一体の人形を作られています。

丸太のヘソがちょうど人形の顔の中心にくるように

つくられており、根気のいう作業が必要とされます。



個人的に非常にほしい作品だったんですが

彼の作品は男の手業とかわいいもの小さなものを

愛する感性が同時に表象されたハイブリットな作品だと思いました。







9、思索する作品、メタメッセージ的アプローチ
ysdやすだ ブース風景


ysdやすだ ブース風景 側面


ysdやすだ ブース内部 窓を開けてのぞく空間



さて最後にご紹介するのは、ysdやすだ さんの作品です。

彼女の作品は写真でみるようにお城的なものがあって

窓を開けれるようになっているお客さんが

関わっていく作品なのですが、中のぞくと暗い映像が写され

半パン、Tシャツの二人の女子が、汗だくになりながらなにやら、

がんばり体操を行っているようすが見れます。

しかし何か違和感があり、もう少し集中して

のぞいてみると、驚くことなかれ、

実はそれは映像ではなく、リアル人間が

狭い箱の中でダンスらしきものを行っていたのでした。

ビックリ!!!!



ブースの構造上、人が2人も入れる暗室があるとは

とても思えず、また窓にはメッシュが張られていて

荒いモノクロ映像のように見える効果もあって

まんまと騙されましたWWW



このような作品はお城的なものや、暗室のダンスの内容よりも

このような設定、構造をなぜとったのかということに

意識がはたらきます。目の前に見えている表象ではない

目に見えない上位のメッセージ「メタメッセージ」について

思考しろと作品の構造が要求してきます。


今回のアートダイブでは、このようなメタメッセージを

扱った作品が少ないなかで異彩を放っていた作品でした。




<アートダイブについての感想とアーティストへのメッセージ>


さて、ここまで長い長い京都アートダイブの

物語を語ってきましたが、みなさんいかがでしたか?



私は僭越ながら、とても楽しめました。

ARTを少しかじった人は、アートダイブのような

フェスティバルを、イラストや手芸だなとして

切り捨てる人がいますが、私はこのような作品の中の方が

日本が抱えている欲望や不安、精神性がストレートに

表象されているように感じました。

そして表現者として、皆さんイイ感覚しているなと感じたのです。

いいかえるなら人類学的な表現の本質が

豊かに展開されていると感じました。



アートよろず相談所をしていて、受けた相談のほとんどは

このような感覚の良いアーティストと言われる人たちが

どのような現場で活動していけば、いいんですかね?

と言うものでした。



私は、感覚を磨きながら、もう一方で

自分の好きな、または興味のある分野の物語(文脈、歴史)が

語れるように学んでいくことを、おすすめしました。



ある分野の新しい価値や枠組みを示すことが

アーティストの本分だと思うからです。

また、それは表現物をネタとして消費する

業界・社会に対するアーティストの対抗手段の

ひとつだと思います。



分野・業界を絞った物語が語れるアーティストは

活躍できる現場が、自然に見つかり

きちんとしたプレゼンや提案が相手にできるようになると思います。


みなさん、がんばってくださいね!!!

心より応援しています。



<アートダイブ・アートフェスティバルの可能性>


最後に今後のアートフェスティバルの可能性について

お話をしておしまいにしたいと思います。



今回のアートダイブのもう一つの特徴は

似たような作品、見たことのあるような作品が

たくさんあったことでしょうか?

一見すると独自性のない凡庸な作品群で

これらを即視感のある作品群と一蹴するのは簡単ですが、

展示会場に1日いて感じたことは

似たような作品、見たことのあるような作品で

あることが、非常に大事なんだということに

気づきました。これは大収穫です。



どういうことかと言います、日本の表現の特徴に

類推性、連想性、アナロジーがあります。

俳句の連歌やアニメのコミケ2次創作物、

ニコニコ動画にみられるような、共通のフォーマットや

作品をいかに変化させ、工夫させるかに想像力を

発揮させる活動です。



決して作家たちにオリジナリや個性がないから、

似た表現になっているのではなくて、

彼、彼女らは積極的に他者の作品の要素を似せながら、

それをずらしたり転調させたりすることに、

表現のエネルギーを集中させていきます。



またアートダイブでは、ほとんどの作家がポストカードを

必需品として作品と一緒に展示しているのですが

それは、お互いに作品を遊戯王のカードゲームのように

交換させながら、ネットワークや共通のフォーマットを

作り上げコミュニケーションをとろうと必死に

努力している純粋な行為に見えました。



今後アートフェスティバルが盛り上がるための方向性

としてオリジナルや単独の賞を推進するおではなく

このような2時創作的、連想的な表現行為が

より豊かに展開するような仕掛けをつくっていければ

と思いました。



また点と点でバラバラに出品している作家たちが線と線で、

または面でつながる仕掛けフォーマットを

つくていければいいなとも思いました。





PS、絵画の特性の分類をした地図を書いていますので

今回の分類にご興味を持った方はご覧ください。

http://www2.ocn.ne.jp/~art2g/text5.html