アート系トーク番組 art air の日記

アート・美術・幼児造形などについて

子どもの絵の成長は美術史を逆行する 




子どもの絵のみずみずしい表現を見ていますと、

そこには人が絵を描くことの意味や

本質的な要素エッセンスがつまっているように思います。

子どもの絵を成長段階にそってみてみますと

まず0才〜1才半ごろまでは、「スクリブル」といわれる

なぐり描きの時期があります。





よこ線やたて線などが描かれ、

まるで抽象画のサイ・トオンブリーのような感じです。

画材がなくても木の棒のハシ切れで

砂場などに描いたりします。

これは絵を描いているというよりは、

道具をつかって得られる対象との感覚や、

その場におこる現象の変化をたのしんでいるようです。

このような経験をとおして「知覚」を広げていくのだと思います。

またそのような活動は現代日本のアーティスト

マイクロポップの作家たちと共通した感覚があるように思います。




(現代アーティスト サイ・トオンブリー作)




次に2才〜3才ごろになると

肩がまわせるようになって円を描けるようになります。

円が描けることで、絵の空間のなかに円の内と外という感覚がうまれ、

自分と他者との違いを絵の中で認識するようになります。

閉じられた空間はママや自分など何かに見立てられるようになり、

周りとの関係が描けるようになります。




(3才 家族とケータイ電話)



丸の顔に直接、棒線の手足が描かれる頭足人

よばれる表現がみられるのもこの時期です。

画面はたくさんの丸や線で構成され、

それはアーティスト草間弥生や具体の田中敦子を彷彿とさせます。



(2才 カタチ遊び)




(具体派 田中敦子




草間弥生 大中小の同じカタチで画面にリズムを作っています)




4才〜5才になると体がしっかり描かれ

手足なども太くなります。

ただ、まだ重力の認識や対象の正確な描写には関心がなく、

思ったことや強く印象に残ったことなどを

大きく「強調して」描きます。



(4才 運動会の旗体操)




(5才 牛さん)



しばし主役のものを画面いっぱいに描いて

あたかも世界の中心が自分であるような表現をします。

それらはデ・クーニングの女性像や

ジャン・デビュッフェの絵と類似しているように思います。



(デ・クーニング 女性)



(ジャン・デビュッフェは豊かな表現力を求めて
  子どもの絵を参考にして描いています)



((ジャン・デビュッフェ作 牛)





6才〜7才になるとお家の外の世界に

興味をもちはじめ「社会性」が絵の中にでてきます。

重力の認識がうまれ、「地面の横線」を画面下方にひいて、

その上にお家、人などをならべて描いていき

「概念的な絵」になります。

また対象物の大きさのちがいなどもわかるようになります。

そのため人物は以前ほど大きく描かれずに

世界の関係の中で人物を描いていきます。




(6才 鳥さんとお散歩)




8才〜9才になると、絵はより細かく説明的になっていきます。

しばしば絵を説明するための言葉なども画面に描かれます。

子どもたちがこの時期熱心に描いている物語は

「神話」とよく似ています。




(8才 海賊船にのって冒険にでよう!)




(8才 屋根裏の私だけの秘密のお部屋)



世界の始まりや終わりを描いたり、勇者の戦い、

大人になるための通過儀礼や変身願望などを描きます。

一見するとマンガやアニメの影響を受けているような

絵が多いのですが、子どもたちが本当に描こうとしていることは、

成長するために「必要な物語」なのです。




ミケランジェロ 1550年頃 最後の審判より)




(ボシュ 1505年頃 聖アントニウスの誘惑)




10才をすぎたあたりから、子どもの表現活動は

大きく質が変わってきます。それまでは自分の思いや

感じたことを表現するために描いてきた絵が、

他者からどのようにみられるか、とか

どのような役にたつのかという自分の作品に対して

客観性が生まれ、恥ずかしさもでてきます。



10才は子どもの成長過程の分岐点になっており、

ちょうど大人の脳細胞と同じ量の脳細胞ができるのもこの時期です。

以前は「自分の表現したいもの」が中心であった造形活動の関心が

「技術」「知識」の習得へと関心が移っていきます。

絵の中で自由な表現を求めるというよりは、

写真のような絵や工芸的なものに関心が移っていくのです。




(10才 オリジナル・デザイン様式をつくろう)



(10才 オリジナル・デザイン様式をつくろう)



このように10才までの子どもの絵の成長は

美術史の歴史を逆行して成長していくようで

大変興味深いです。




また10才以降は身に付けた技術や知識を

一度壊し、再構成する時期がこのあとに続きます。

反抗期の中学生ぐらいで自分の固定観念を壊し

高校、大学ぐらいで再構成するとういう成長過程になりますが、

その時期の絵のお話は、また別の機会にでも・・・・