アート系トーク番組 art air の日記

アート・美術・幼児造形などについて

  「作品テーマを述べよ」という制作方法の誤り 


あらしのよるに」の童話で有名な絵本・童話作家

木村裕一さんが書いた本「きむら式 童話のつくりかた」

を読みました。木村さんは今までに300冊以上の著書があり

制作のなかで身をもって学んだ制作方法について

丁寧に書いています。




そこで「作品テーマ」について面白いことが

書かれていました。





『はっきり言って、テーマというのは結果論である。

作品は、生き生きとした「本当にあるかのように描いた世界」である。

作家は、その仮想現実に命を吹き込む作業をしている。

ということは、作品はひとつの生き物といえるものだ。

生き物なのだから、いろんな面を持っている。

だから面白いのだ。



一人の人間を一つのテーマで、くくることはできない。

同じように、作品も、それが生きているなら、

いろいろな見方ができるはずだ。

それでも、一人の人間に個性があるように、作品にも、

どうしても内側からなんらかの特徴がにじみ出てしまう。

それがテーマだと、ボクは思う。作品からにじみ出てくるものを

読者が自然に感じ取ってしまうのがテーマなのである。

具体的に「○○を書こう」などと意図するテーマというものは、

存在しない。





でも、一つの作品に「テーマのよなもの」だったら

あるかもしれない。

もしもその「テーマのよなもの」があったとしても

絶対、言葉にしてはいけない。

「戦争をやめましょう」というのを前面に出すなら、

「戦争をやめましょう」という言葉で言い訳で、

わざわざお話をつくって延々と読ませる必要はない。





どうしてストーリーにするかというと、

理解させるのではなくて、

感じさせる、思わせる、そのためだ。

言葉でわかることと心で思うことは違う。





言葉であるひとつのことを言って、

読んだ人がその意味を

言葉としてわかったとしても、

本当にそう思うかどうかは別だ。

思わせるには、ストーリーが要る。

それを読んで、涙を流して、ほんとうにそう思うとしたら、

それは読まなきゃ生まれない感情を経験しているのだ。




でも理解させるのは、その言葉で済むから、

キャッチフレーズでいい。

どうやったら「思わせる」ことができるのか。

そのことを言わないで、

どうやって思わせるかのために、

たくさんの文章を書く訳なのである。』







絵画の場合も同じだと思う。

芸大の授業では、作品の合評会のとき

一人一人作品のテーマや意図を言わせる場合が多いが

私の経験上、描いてる本人たちは

ある確固としたテーマがあって

描いている訳ではないように思う。

「テーマのようなもの」があって描いているのである。

そして、描く側の立場から言わせてもらうと

描きながら、何かひっかかること、

これ面白いなとか、うまく言ってるかなとか

もしくは、自分がやっていることを

よく分からないまま、好奇心のみで

描いているときも多い。




だから、たくさんの枚数を継続的に描いて

制作現場の中から、でてきた面白いことを

拾い上げる作業が、とても大事になる。




テーマのようなものは生き物のように

いろいろな側面をもっているのものだと思う。

よく私のテーマは「皮膚との境界」です。

など、確固とした言語化をしてしまう人がいるが

これは、言葉に縛られてしまって

生きた作品を殺してしまうおそれがあるので危険だ。

「皮膚のような境界のようなもの」が、

たぶんテーマなのだと思う。

言葉の力は強力なのであなどってはいけない。






これとは反対に言葉の力をつかって

強度のあるプロタクトデザインを作る場合がある。

広告や商品デザインは確固とした目標

「売れる」「便利が良い」などしっかりしたものがあるので

テーマを言語化し、それを視覚化する、いわゆる「視覚言語」が

可能であり、必要である。



どのようなものを作るかで、

制作の姿勢が変わるのだと思う。